経済古典は役に立つ 竹中平蔵 光文社新書(2010)
経済古典は役に立つ 竹中平蔵 光文社新書(2010)
優れた経済古典とは分かりやすいパンフレットだ
日本を代表する経済学者で最近YouTubeデビューも果たした竹中平蔵氏の著書である。過去の偉人たちが遺した経済古典を読み解き、それぞれの時代にはどのような経済学的課題が存在していたのか知ることができる。
一例をあげると、不況期には政府が財政出動を拡大して経済を支えるべきだという「ケインズ政策」というものが存在する。今となっては当たり前の考え方だが、ケインズがこの政策を提唱した時代には「社会主義者だ」という批判を受けた。当時、世界は大恐慌に見舞われており、従来の経済学の考え方では説明できない事態に陥っていた。だからこそケインズは「政府の財政出動を拡大せよ」と唱えたのである。
本書を読むことでアダム・スミスからミルトン・フリードマンまで、経済学の巨匠たちがどのような時代背景のもとで、どのような処方箋を描いたのか読み解くことができる。歴史の流れを旅しながら、経済学の基本的な考え方まで学べる一冊である。
エネルギー(上・下) 黒木亮 角川書店(2013)
全世界を舞台に「エネルギー」を巡って、奔走する者たちの物語
本書は石油、天然ガスといった国家にとって必要不可欠な資源について描かれた物語である。資源ビジネスは、単にモノを買って売るという単純なものでなく、政治・金融先物市場・国際情勢・環境保護団体などの様々な利害関係者が関わりあって成り立っているということを知ることができる。
・商社
この物語では、大手総合商社と中堅商社のエネルギー部門に所属する商社マンが登場する。大手商社マンの方は、実直で堅実。中堅商社マンの方は野心あふれる昔ながらの商社マンというように、それぞれの個性が際立っていておもしろい。
・国際情勢
エネルギービジネスと切っても切り離せないものが国際情勢だ。各国の政策・戦争なのどの国際情勢に翻弄されるビジネスマンたちの苦闘がうかがえる。
・先物取引
この物語のもう一つの伏線として描かれているのが、原油の先物取引(デリバティブ)の世界だ。原油を金融商品の一つとしてとらえ、トレーディングで大金を稼ごうとしている金融マンがどのように暗躍しているのかが分かる。また、そのような行為の危うさも知ることができる。
・環境保護団体
資源開発をするうえでネックになってくるのが、環境NGOや地元の人々との折衝だ。石油や天然ガスは人々の生活を支えるうえで欠かせないものだが、原油流失などの環境破壊のリスクも伴う。そのバランスをどのようにとるのか。環境保護団体の苦闘も垣間見れる。
金融機関や商社などで様々なビジネスに携わってきた著者だからこそ書ける作品である。
路 吉田修一 (文春文庫 2015)
日本の新幹線が台湾を走る
この物語は日本が世界に誇る新幹線技術を輸出するという一大プロジェクトを主軸に様々な人間模様が描かれている。
私自身は鉄道が好きでこの本を読んでみようと思ったのだが、日本の鉄道技術とヨーロッパの鉄道技術の違いについてはあまり触れらていない。日本とヨーロッパの技術の融合で台湾新幹線は誕生した。そこには関係者の壮絶なドラマがあったと思うのだが、そのあたりには、あまりフォーカスされていない。
日本人女性と台湾人男性の恋模様。ごく普通の台湾人青年の日常。戦後、台湾から引き揚げた日本人の想い。様々なバックグラウンドを抱えながら生きる人々の7年間がこの一冊には詰まっている。
この本を読むだけで台湾の人、食、街並み、自然などの文化にも浸ることができる。これから台湾を旅したい人や台湾を旅したことがある人にもおススメの一冊である。