凡人読書家の書斎(読書&ときどき投資)

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査察機長 内田幹樹 新潮文庫 (2008)

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パイロットという仕事

著者は全日本空輸(ANA)で十数年にわたりパイロットとして勤務した方である。その豊富な経験、知識に基づいて描かれた傑作小説だ。

 

成田ーニューヨーク間のフライトが舞台となっている。しかし、これはただのフライトではない。査察飛行という操縦教官が乗り込み、機長の技量を審査する緊迫したフライトなのだ。主人公は新米機長であり、経験も浅く様々な試練が待ち受けている。

 

パイロットというと、高給取りで華やかな「憧れの職業」というイメージを持つ。しかし本書を読んでそのような描写は描かれていない。会社や同僚、待遇への不満といった「普通のサラリーマン」と同じようなパイロットの苦悩が、コミカルに描かれている。実際にパイロットという職業を経験した著者だからこそ描けるものだろう。

 

もちろんどのようにして旅客機を飛ばすのか、そのメカニズムも詳細に描かれている。物語に登場するボーイング747-400型機は、古い機体であり日本の航空会社では退役している。そのため現代のそれとは多少異なるだろう。しかし、事前準備・離陸・巡行・着陸といったフェーズごとに、様々な航空知識が解説されており、読んでいて実際に飛行機を飛ばしているような感覚に陥る。物語終盤、猛吹雪の中のJ・F・ケネディー国際空港に着陸するシーンは圧巻である。

 

少しでも飛行機に興味のある方は、ぜひ手に取ってみてほしい。