凡人読書家の書斎(読書&ときどき投資)

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人新世の「資本論」 斎藤幸平 集英社新書 (2020)

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マルクスが世界を救う?

SDGsや気候変動問題といった地球環境に関する話題が盛んにニュースで取り上げられるようになってきている。しかし、著者はこのようなものは「現代版大衆のアヘン」であると一蹴している。

 

温暖化対策のために行っている「エコバック」や「ハイブリットカーを買う」ということは、気候変動を遅らせるための時間稼ぎでしかない。

 

このような消費者の行動は、結局は資本家の利潤となり、利潤は永遠の経済成長を続ける。経済成長が続く限り環境破壊を止めることはできないと、筆者は主張する。人間の経済活動が地球表面を覆いつくしてしまっているのだ。これを「人新世の時代」と呼ぶ。

 

資本主義の黎明期、安価な労働力を利用して先進国は発展を遂げたが、現代では難しくなってきている。それと同じように化石燃料を代表とする「自然」という地球環境を通じて経済発展を遂げることも限界にきている。人々の欲望は無限だが、地球は有限なのである。

 

資本主義の矛盾が見え始めた現代、このような問題が発生することを予言していた人物がいた。それが「カール・マルクス」である。

 

電気自動車を例にとってみよう。電気自動車に不可欠なリチウムイオン電池は様々なレアメタルを必要とする。レアメタルのほとんどはグローバルサウスと呼ばれる発展途上国に存在する。それを採掘する際、莫大なCO2排出や、その地域の環境破壊をもたらす。一説によれば世界中の車が電気自動車に置き換わっても、CO2排出量はたった1%しか減らないそうだ。

 

一見、先進国で環境問題が解決されているように見えても、実は遠く離れた地域にその問題を転嫁しているに過ぎない。これを「外部性」と呼ぶが、資本主義社会において、そのような問題が発生することを予言していたのがマルクスなのである。

 

本書の著者で新進気鋭のマルクス研究者である斎藤氏は、このような問題についてどのような解決策を提示するのか。環境問題や資本主義社会の限界といったような問題について、少しでも関心のある方には、ぜひ読んでもらいたい。