凡人読書家の書斎(読書&ときどき投資)

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クライマーズハイ 横山秀夫 文春文庫 2006

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実際の航空機事故を題材とした圧巻の物語

日航123便墜落事故から今年で36年が経過した。乗員・乗客520名が犠牲になるという単独機として世界最大の事故であった。

筆者の横山秀夫氏は当時、新聞記者としてこの事故の取材にあたっている。それだけにこの作品が持つ説得力・リアリティーは計り知れないものがある。

 

マスコミの視点から見た日航機墜落事故

主人公・悠木和雅は地元紙「北関東新聞」の記者であった。事故が発生したとの一報を受け「日航全権デスク」を任される。全権デスクとは取材から出稿まで、すべてを任される総責任者だ。

北関東新聞は事故機が墜落した群馬の地元紙という設定だ。朝日・読売といった大手新聞に対抗すべく悠木は奮闘する。

しかし、いち早く現場に到着した若手記者の現場雑感を掲載できなったり、墜落原因に関する世界的スクープの掲載を見送ることになるなど、ことごとく失態を起こしてしまう。

悠木は若手記者との対立、社内のベテラン記者との確執、はたまた家族との関係など様々な問題と向き合う。

 

 

この物語には「世界最大の航空機事故」という未曽有の事態に直面したすべての人物の苦悩・葛藤が描かれている。当時の関係者は皆「クライマーズハイ」だったのである。どのように報道したか、どのようにスクープをとったかということではなく、あえて関係者の苦悩を描くことによって、犠牲者への鎮魂の思いが込められている作品だ。