日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門 もう代案はありません 藤沢数希 ダイヤモンド社 2011
経済音痴の人にも多少経済に詳しい人にもおススメ
本書は月間100万PVを誇るブログ「金融日記」を主宰する藤沢数希氏によって書かれた経済学の入門書である。著者は外資系投資銀行でトレーダーとして活躍していた経歴を持ち、まさに資本主義の最前線で戦ってきた人物である。それだけに、経済に関する造詣は深い。
経済学の本というと難解なイメージを抱く人もいるかと思う。しかし、本書では経済学の基本を平易かつコミカルな文体で書かれており読みやすい。数式も極力省かれている。
私が興味深かったのはリーマンショックはなぜ起きたのか、という解説である。当時、世界中で話題になった出来事だが、本書の解説ほどわかりやすいものは無かった。いまだにリーマンショックのからくりが理解できていない人にとっては本書はおススメである。
他にも経済学の基本である「GDP」「経済政策」「国際金融」などの基本的なエッセンスが多数取り上げられている。
巻末には「もう代案はありません」と称して、日本がとるべ政策についての筆者の新自由主義的な見解が示されている。
もう一度経済を学びなおしたい人、経済学部の学生などに本書を手に取ってみてほしい。
人新世の「資本論」 斎藤幸平 集英社新書 (2020)
マルクスが世界を救う?
SDGsや気候変動問題といった地球環境に関する話題が盛んにニュースで取り上げられるようになってきている。しかし、著者はこのようなものは「現代版大衆のアヘン」であると一蹴している。
温暖化対策のために行っている「エコバック」や「ハイブリットカーを買う」ということは、気候変動を遅らせるための時間稼ぎでしかない。
このような消費者の行動は、結局は資本家の利潤となり、利潤は永遠の経済成長を続ける。経済成長が続く限り環境破壊を止めることはできないと、筆者は主張する。人間の経済活動が地球表面を覆いつくしてしまっているのだ。これを「人新世の時代」と呼ぶ。
資本主義の黎明期、安価な労働力を利用して先進国は発展を遂げたが、現代では難しくなってきている。それと同じように化石燃料を代表とする「自然」という地球環境を通じて経済発展を遂げることも限界にきている。人々の欲望は無限だが、地球は有限なのである。
資本主義の矛盾が見え始めた現代、このような問題が発生することを予言していた人物がいた。それが「カール・マルクス」である。
電気自動車を例にとってみよう。電気自動車に不可欠なリチウムイオン電池は様々なレアメタルを必要とする。レアメタルのほとんどはグローバルサウスと呼ばれる発展途上国に存在する。それを採掘する際、莫大なCO2排出や、その地域の環境破壊をもたらす。一説によれば世界中の車が電気自動車に置き換わっても、CO2排出量はたった1%しか減らないそうだ。
一見、先進国で環境問題が解決されているように見えても、実は遠く離れた地域にその問題を転嫁しているに過ぎない。これを「外部性」と呼ぶが、資本主義社会において、そのような問題が発生することを予言していたのがマルクスなのである。
本書の著者で新進気鋭のマルクス研究者である斎藤氏は、このような問題についてどのような解決策を提示するのか。環境問題や資本主義社会の限界といったような問題について、少しでも関心のある方には、ぜひ読んでもらいたい。
レッド・オクトーバーを追え(上・下)トム・クランシー 文春文庫(1985)
軍事小説の大家トムクランシーの処女作にして最高傑作
ミリタリーオタクにとってはたまらない一冊であろう。舞台は東西冷戦末期のアメリカとソ連。ソ連の最新鋭潜水艦「レッド・オクトーバー」が政治亡命を企てる艦長の手に乗っ取られた。レッド・オクトーバー(架空)は無音潜航装置を備えており、容易には探知できない。その潜水艦が政治亡命に使われることが判明した。ソ連側の政治・軍部は大慌て。大西洋に展開できる全艦船を出港させ捜索に当たる。一方、レッド・オクトーバーの企てを察知したアメリカ側は、それを援護すべくあらゆる軍事作戦を展開させる。冷戦当時のアメリカ・ソ連の軍事と政治的駆け引きが克明に描写されている。
出版当時、アメリカの政治家らが「なんで軍事機密か漏れているんだ!」という発言を残したという逸話もある。それほどまでに本書の描写は的確であったのだろう。
軍事情報に詳しくない読者にとっては難解な用語も出てくる。それでも物語に引き込まれてしまう人物描写がおもしろく、どんどん読み進めることができるだろう。
海洋冒険軍事小説という画期的なジャンルを確立した本書には、一読の価値がある。
査察機長 内田幹樹 新潮文庫 (2008)
パイロットという仕事
著者は全日本空輸(ANA)で十数年にわたりパイロットとして勤務した方である。その豊富な経験、知識に基づいて描かれた傑作小説だ。
成田ーニューヨーク間のフライトが舞台となっている。しかし、これはただのフライトではない。査察飛行という操縦教官が乗り込み、機長の技量を審査する緊迫したフライトなのだ。主人公は新米機長であり、経験も浅く様々な試練が待ち受けている。
パイロットというと、高給取りで華やかな「憧れの職業」というイメージを持つ。しかし本書を読んでそのような描写は描かれていない。会社や同僚、待遇への不満といった「普通のサラリーマン」と同じようなパイロットの苦悩が、コミカルに描かれている。実際にパイロットという職業を経験した著者だからこそ描けるものだろう。
もちろんどのようにして旅客機を飛ばすのか、そのメカニズムも詳細に描かれている。物語に登場するボーイング747-400型機は、古い機体であり日本の航空会社では退役している。そのため現代のそれとは多少異なるだろう。しかし、事前準備・離陸・巡行・着陸といったフェーズごとに、様々な航空知識が解説されており、読んでいて実際に飛行機を飛ばしているような感覚に陥る。物語終盤、猛吹雪の中のJ・F・ケネディー国際空港に着陸するシーンは圧巻である。
少しでも飛行機に興味のある方は、ぜひ手に取ってみてほしい。
英語勉強力-成功する超効率学習- 青谷正妥 DHC (2005)
英語学習だけでなくあらゆる知識習得法を学べる
本書は英語学習法を指南するものであるが、筆者が提唱する英語学習のフレームワークはあらゆる知識習得の場面で活かせると思う。
日本人は「英語は知っているが、使うことはできない」と言われている。その原因は偏った知識にあるという。知識には2種類あり「自分で説明できる知識」と「説明できないがなぜか分かる知識」に分かれる。日本人の英語の知識は前者に偏っており、英語学習においては、その2つのバランスをとるということが重要だと筆者は説く。
このような視点は英語学習だけでなく、あらゆる物事を学習する際に意識すべきことではないだろうか。インプットとアウトプットを繰り返し、精と量、機械的な学習・理解的な学習を行う。そうすることで、学習における多角的なアプローチを可能にし、効果的な勉強ができるのではないだろうか。